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日本の財政問題の本質 ー 積極財政と緊縮財政の議論の前にすべきこと

公開:2025/9/1

「年金が減るかもしれない」「医療費の自己負担が上がるかもしれない」。こうしたニュースを耳にすると、不安を感じる人は多いでしょう。これらの背景にあるのが、日本の「財政問題」です。

財政と聞くと「国の借金」「国債」といった難しい言葉を連想するかもしれませんが、要するに「私たちが払った税金や社会保険料をどう使うか」という話です。教育、医療、年金、子育て支援──すべてが財政の上に成り立っています。だからこそ、この問題は決して“遠い世界の話”ではなく、私たちの生活そのものに関わっています。

目次

現状の問題点

日本の政府債務残高はGDP比で200%を超え、先進国の中でも突出して高い水準にあります。少子高齢化が進み、社会保障費は毎年膨張。医療や年金のために使われる予算は増え続ける一方で、財源は税収や国債発行に頼らざるを得ません。

その結果、「もっと国が支出して景気をよくすべきだ」という積極財政派と、「これ以上借金を増やすのは危険だ」という緊縮財政派が激しく対立しています。

財政問題の詳しい解説はこちら →

積極財政派と緊縮財政派の主張

積極財政派は「政府がもっとお金を使い、経済成長を促すべきだ」と主張します。国債を発行し、投資や社会保障に回すことで、将来の成長につなげるべきだという考えです。

一方、緊縮財政派は「国債残高が膨らめば、将来世代にツケを回すことになる」と警鐘を鳴らします。金利が上がれば利払い費も急増し、財政が破綻するリスクがあるからです。

どちらも手段でしかない

しかし、どちらかが100%正しく、どちらかが100%間違っているわけではありません。経済状況や人口構造、世界の金融環境によって、どちらの政策が適切かはその時々で変わります。重要なのは「積極か緊縮か」という立場の違いではなく、我々の生活を豊かにするために「適切なタイミングで限られた財源をどう効率的に使うか」です。どちらも手段でしかなく、目的ではないのです。

歳出の無駄を削減できているのか

本質的な問題は、歳出の効果が十分に検証されないまま予算が拡大してしまうことです。どちらの立場も、無駄な支出は許容していません。無駄な予算のために国債を発行したり、増税することは誰も望みません。必要なのは、政策の効果を定量的に評価し、必要な支出に集中することです。

新しい政策が導入されても、「どこに、いくら使い、どんな成果があったのか」という検証が不十分なままでは、翌年も翌々年も同じ支出を繰り返すことになります。結果として歳出は際限なく膨らみ、新たな政策を実行するたびに国債や増税に頼らざるを得なくなります。

この構造を変えるには、財政支出に「削減と効率化のインセンティブ」を組み込む必要があります。具体的には、政策ごとに明確なKPI(重要業績評価指標)を設定し、その達成度を会計検査院や独立した第三者機関が厳しく評価する仕組みが不可欠です。

「どこに、いくら使い、どんな成果があったのか」を誰もがわかる形で示し、効果の薄い事業は見直す。この当たり前のプロセスを徹底することで初めて、財政は国民の信頼を取り戻せるのです。

私たち国民に求められるのも、単に「お金を出せ」「借金を減らせ」と叫ぶことではありません。「その支出は、本当に私たちの未来にとって効果的なのか?」という、質の高い問いを立て続けることです。

財政と社会保障のバランス

財政問題の最大の課題は社会保障です。高齢化に伴い医療・年金の支出は膨らみ続けていますが、「削ればサービスが低下する」との懸念から抜本的な改革は進んでいません。

しかし、本当に支出削減はサービス低下に直結するのでしょうか。現行制度をそのまま維持する限りは難しいかもしれませんが、政策の目的を見直し、効率化やイノベーションを取り入れることで、少ない予算でもより質の高いサービスを提供できる余地はあります。

重要なのは「最終的な目標(KGI)」と「途中の指標(KPI)」を正しく設定することです。

医療を例にとれば、真のゴールは「国民が健康で豊かな生活を送ること」です。理想を言えば、病気にならず、病院や薬に頼らないで済む社会が最も望ましいはずです。しかし現実には「病院数」,「薬の価格」,「診療報酬の高さ」といった指標が重視されます。

日本の医療保険制度は「病気になった人を治す」ことに重点が置かれていますが、これを「病気にならないようにする」ことにシフトできれば、医療費の抑制と国民の健康増進を両立できる可能性があります。

もし指標を入れ替え、予防医療や健康増進に重点を置けば、結果的に医療費を抑制しつつ医療サービスの質を維持できるのではないでしょうか。これは決して「病院に行くな」「医療の質を下げる」という意味ではありません。むしろ、本当に高度な医療が必要な人に資源を集中させ、社会全体を持続可能にするために必要な視点です。

歳出削減 = サービス低下にさせないために必要なこと

医療を例にすると、AI診断や遠隔医療、医療DXの導入が進めば、従来より安価に、しかも効率的に高度な医療を受けられる可能性があります。北欧の一部では、デジタル診療や予防医療の仕組みが普及し、医療費の効率化につながっています。

「支出を減らす=質が落ちる」ではなく、「支出を減らす=効率化し、質を上げる」という発想の転換が求められています。

経済成長の必要性

人口が減る中で同じ水準の社会保障を維持するには、選択肢は大きく3つに分けられます。

1.一人あたりの負担を増やす(増税や社会保険料の引き上げ)

2.享受できるサービスを取捨選択する(縮小や削減)

3.イノベーションを起こす(DXやAI活用でコストを下げつつ質を高める)

いずれの道も容易ではありませんが、持続可能な社会のためには避けられない選択です。特に1や2を最小限に抑えるためには、3を通じて生産性を高め、経済を成長させることが不可欠です。イノベーションは単なるコスト削減策にとどまらず、一人ひとりの付加価値を引き上げ、結果としてGDPの底上げにつながります。

世代間の公平性の観点からも、現役世代に過度な負担が集中するのは避けなければなりません。そのためには「一人当たりの成長率を上げる」ことこそが、最も健全で持続的な解決策となります。

まとめ

日本の財政問題を「積極財政か、緊縮財政か」という単純な対立で語るのは不十分です。本当に必要なのは、「歳出の効率化」と「持続可能な経済成長」の両立です。

もちろん政治家や行政が責任を果たすことは前提ですが、私たち国民にもできることがあります。たとえば生活面では、健康を意識し、生活習慣病を予防することが医療費の抑制につながります。経済面では、日々の消費や将来に向けた投資が成長を支える力となります。経済は国だけで勝手に成長するものではなく、私たち国民一人ひとりの選択と行動が社会全体に波及していくのです。

財政問題は遠い世界の話ではなく、私たちの暮らしを守るための“自分ごとの課題”です。効率的な歳出と持続可能な成長をどう実現するか。私たち自身が考え、責任を持つことこそが、我々の生活を変える第一歩となるのではないでしょうか。

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